【本紹介】:快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか
公開日: 02/08/2025
公開日: 02/08/2025
「快楽に溺れる」という表現があるように、快感や快楽は、人間をダメにする、一度ハマったら抜け出すことが難しい嗜好の一つだと捉えられることがあります。
本著は脳神経科学者である著者が、「快感」について、依存症的側面とともに脳神経における科学的根拠をもとに解説しています。快感の対象範囲は多岐に渡り、ギャンブルや薬物、飲食やアルコール、痛み、瞑想、そしてセックスに至るまで様々な分野が対象です。ただ、社会的、文化的な側面というよりは、あくまで科学的知見を中心に記述されていることが特徴でしょう。
本著では、第4章に「性的な脳」として、セックスを中心に題材に取り上げられています。快楽の中のセックスは大きな項目の一つです。本著の中で重要な指摘は、人間はそのほかの動物と比べて「セックスの娯楽化」が起きている、ということです。通常の動物には発情期があるように、排卵期にセックスを行い、時期が過ぎるとセックスはしません。しかし、人間は排卵期とは関係なく男女が性行為を行い、快楽を得るための「娯楽」となっているという指摘です。
確かに、人間はほかの動物とは異なり、様々な体位から玩具と言ったフィジカルな面からコミュニケーションや相手への気配りなど、セックスを楽しんでいると言えます。これらの娯楽化が後述するようなホルモンの働きとともに、私たちに取ってセックスという行為そのものが欠かせない娯楽として捉えられるものであることを示しているのではないでしょうか。
また、一方で、本著では恋愛と性的興奮についても快感という点において、脳科学の知見から脳の働き方は「全くの別物」だと指摘します。
性的な興奮は恋愛時に比べて、「判断力や社会的認知中枢の活動低下は生じなかった」ことや「逆に、皮質が広範囲に活性化した」ことを明らかにしています。性的刺激を受けているとき、視覚処理や注意、運動、感覚など多様な領域が一斉に反応しているというのです。これは、性的な行動が本能反応だけでなく、身体的・心理的・文化的な側面も強く関わっていることを裏付けていると言えるでしょう。
つまりは「快楽に溺れる」という言葉とは裏腹に、恋愛時よりも明確に理性を持って楽しんでいる状態だと言えるかもしれません。
さらに男女で性的指向に関して、性器の反応が異なることが解説されています。
現在では広く知られていることではありますが、膣の分泌液と興奮度合いは必ずしも関係していないことが示されています。女性の身体は、生理的に自動的・防御的に反応することがあるという事実を強調するものでしょう。
さらにセックス後に訪れる「温かい余韻」、つまり著者がいう「絆の感覚」がオキシトシンというホルモンに媒介されていることが示されます。
出産や授乳で働くこのホルモンが、恋愛や信頼の形成にも作用する点は、性愛・親子関係・社会的信頼がすべて同じ神経生理的基盤に支えられていることを意味します。
最後に、本書の特筆すべき点は、性についての語りを、羞恥・逸脱・道徳といった文化的な枠組みから脱却させ、身体と脳に根ざした行動科学の対象として描き直す点にあるでしょう。
性の快楽、依存、葛藤、絆――これらはすべて「頭の中の出来事」であり、「本人の意思だけではどうにもならない神経回路の結果」であるという視点は、性はタブー視するものではなく、体の仕組みとして受け入れるべきものであると言えるのではないでしょうか。
「自由恋愛」は、より「自由」な性の関係を意味します。従来の法律や倫理観に縛られることなく、複数者間の恋愛や性、性的嗜好などに正直であろうとする考え方であり、姿勢です。様々な価値観が認められる現在において、注目される「自由恋愛」について解説します。